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十字架に就ての瞑想


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 前書き

 賀川豊彦は昭和に入ると、急速に農村伝道に傾く。ロシア革命の影響を受けた急進派が労働運動を支配し、賀川を「なまっちょろい」と追放した後、農村までもが急進派の勢力に入ったのでは、日本はだめになると考えたのが一つ。もう一つは1924年から25年の欧米旅行で、デンマークの農民高等学校の生み出す力に感化を受けた影響であろう。デンマークについては、内村鑑三が『デンマルク国』という本で詳しく紹介していた。普仏戦争でプロシアに豊かな南部酪農地帯を奪われた国民は地道にユトランド半島を開拓し緑野に変えたという話である。

 農村の再生は可能であると信じた賀川は、100万人のキリスト教信者獲得のため、農村を歩き語る「神の国」運動を展開する。農村をキリスト教で「武装」しようと考えたのである。その時の講話をまとめたのがこの『十字架に就ての瞑想』である。

 フランスで革命が起きたのに、イギリスでなぜ革命が起きなかったか。賀川はその最大に理由について次のように語っている。

「フランス革命の真最中、英国の宗教運動を指導し、英国を暴力の革命より救ったのは、全く、ジョン・ウェスレーのお蔭であった。トマス・カーライルもそう云っている。」(『雲水遍路』

「宗教家として、最も早く失業問題に眼醒め、一世紀の昔、既に或る意味の失業保険制度を考案したジョン・ウェスレー。弱者の友であり、貧民の友である彼が、如何に大衆を再びイエス・キリストに結びつけたかは、誠に十字軍以来の奇蹟であった。英国に於ける奴隷解放の運動は、彼の弟子達によって計画せられ、世界の日曜学校運動も、彼の弟子達の間から産れたのである。ブース大将の救世軍運動も彼の感化であり、英国々教会の覚醒も彼の力によるのである。」(同)

 賀川自身は書いていないが、たぶん日本のジョン・ウェスレーになろうとしたはずだった。その教材が本書だったとすれば、読み方がより深くなるというものだ。

 イエスが三十歳にして、大工を辞め、予言者ヨハネの弟子として伝道を始めた直後、国王ヘロデは異端者としてヨハネの首をはねた。怒りに耐えかねた民衆はイエスを戴いて革命を起こそうと立ち上がった。しかし、イエスは民衆の声を無視して旅に出た。帰ってみると、革命の熱はまだ収まっていなかった。

 イエスが目指したのは地上の王国ではなく、神の王国だったのだ。

 歴史上、民衆に王になることを求められて、戴冠しなかったのはアメリカ建国の父ジョージ・ワシントンしかしらない。

 賀川はイエスの生涯を生身の人間として教えた点がとても興味深い。賀川は言った。

「我国の村に、町に、工場に、学校に、病院に、農村に人の犠牲になって尽す人が待ち望まれている。即ちキリストの精神を持つものでなければならぬ。レーニンは「マルクスの旗の下に!」というが、私は『キリストの十字架の旗の下に集まれ』と叫びたいのである」

 農村伝道で農村を復興させようとした賀川の努力は大きくは実らなかったが、この時期、賀川が力を入れていた協同組合病院の設立は大きな共感を得て、現在のJA厚生連病院に受け継がれている。国民的健康保険制度がなかった時代に、貧しい農村でも医療にかかれることは当時としては革命的な出来事だったはずである

 解説にはならないが、本書が書かれた時代は多少、ご理解を得られたはずである。

 表紙装丁は初版本表紙のデザインを真似て伴武澄が制作した。(2013年8月20日、伴武澄)
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